Actor’s Watch #106
【狂気の衝動】
デニス・ホッパーの腕時計

映画やテレビなどで俳優が着用した時計にフォーカスする「Actor’s Watch」。
第106弾の今回は、「デニス・ホッパーの腕時計」をお送りします。

*出典元:https://www.tcm.com/

1950年代に『理由なき反抗』(1955)、『ジャイアンツ』(1956)でジェームズ・ディーンと共演。アメリカン・ニューシネマの金字塔『イージー・ライダー』(1969)では監督・脚本・主演の3役を担い、映画史に名を刻んだデニス・ホッパー。

しかし、1970年代に入ると飲酒やドラッグでたびたび問題を起こし、映画会社との確執も重なったデニス・ホッパーは、役に恵まれなくなり干された状態に。そんな彼に救いの手を差し伸べたのは、デヴィッド・リンチやクエンティン・タランティーノといった新世代の監督たち。『ブルーベルベット』(1986)や『トゥルー・ロマンス』(1993)での鬼気迫る演技で見事に表舞台へと返り咲き、2010年に癌で亡くなるまで、数々の名作に出演し続けました。

今回の「Actor’s Watch」は、そんなデニス・ホッパーの腕時計に注目して参ります。

バックトラック

BACKTRACK (1990)

*出典元:https://www.pinterest.jp/

ある夜、マフィアの殺人現場を偶然目撃してしまった現代アート作家のアン(ジョディ・フォスター)。それ以来マフィアに狙われる身となったアンだが、創作活動が制限されることを嫌った彼女は警察からの保護を拒否し、住まいを転々としていた。

一方、アンの口を封じる為にマフィアに雇われた殺し屋のマイロ(デニス・ホッパー)は、彼女を暗殺すべく追跡調査を開始。しかし、足取りを追う中で彼女の写真や衣服を手に入れたマイロはアンに恋心を抱き始める。やがてアンの居所を掴んだマイロは彼女を捕らえるが、彼は彼女を殺すことなく、二人で組織から逃げることを選ぶのだった。

*出典元:https://dcpfilm.wordpress.com/

デヴィッド・リンチ監督の名作『ブルーベルベット』(1986)で、笑気ガスを吸いながら情婦に暴力を振るう男フランクを演じ、人気俳優へのカムバックを果たしたデニス・ホッパー。自ら監督・主演をこなした『バックトラック』(1990)では、再び「愛する女性に異常な執着を抱くアウトロー」を演じ、ジョディ・フォスター演じる女性芸術家アンに対し、フェティッシュな性癖を炸裂させています。

本作でデニス・ホッパーが着用しているのは、カルティエ パンテールLM(Ref.106000Mと思われるドレスウォッチ。殺そうとする女を愛してしまったり、音楽好きだが、吹けもしないアルトサックスで不協和音をかき鳴らしたりするチグハグな殺し屋マイロ。銃をぶっ放す汚れ仕事なのに、着けているのはエレガントなドレスウォッチというのも、チグハグなキャラクターを表現しているように思われます。

スピード

SPEED(1994)

*出典元:https://www.digiturkburada.com/

ダウンタウン行きの乗客を乗せたバスに爆弾が仕掛けられる。爆弾魔ハワード(デニス・ホッパー)は、ロス市警のSWAT隊員ジャック(キアヌ・リーヴス)による対応と、370万ドルの身代金を警察に要求する。爆弾にはバスが時速80km以下になると爆発する仕掛けが施されており、バスの停車はおろか減速させることすらできない。人質救出の為、ジャックは走行中のバスに飛び乗るが、その時に起きた事故でドライバーが負傷してしまう。

たまたまバスに乗り合わせた女性、アニー(サンドラ・ブロック)が替わりの運転手となり、バスは障害物や工事現場のある市街を時速80kmで走り続ける。そんな中、ジャックは走行中のバスの下部に仕掛けられた爆弾の撤去に挑もうとするが、、、

*出典元:https://www.rolexmagazine.com/

ロス市警が「クレイジーだが愚かではない」と評する、頭も性格もキレキレの爆弾魔ハワードをデニス・ホッパーが演じた大ヒットアクション映画『スピード』(1994)。キアヌ・リーヴスやサンドラ・ブロックの出世作として知られる本作で、デニス・ホッパーはロレックス GMTマスター(Ref.1675)を着けています。画像で見る限りでは先端が尖ったリューズガード「ポインテッドクラウンガード(PCG)」の特徴を備えた個体のようです。

元警察官である犯人のハワードは、爆弾処理中の事故で親指を失ったことで退職を余儀なくされ、退職の記念に安物の金時計しか贈られなかったことを恨んで爆弾魔となった男。誰かに時計をプレゼントする際には、それなりに価値あるものを贈ることをおススメいたします。

オフショット

*出典元:https://www.catawiki.com/

続いては劇中ではなく、オフショットで着用された一本をご紹介いたします。

インタビュー中のひとコマと思われる、2006年頃に撮影されたこの写真でデニス・ホッパーが着用しているのは、ジェラルドジェンタ レトロバイレトロ(Ref.BIR.L.10)

*出典元:https://www.flickr.com/

ジャンピングアワーにレトログラードの分針とカレンダーを備える、一風変わったこの腕時計を作ったのは、パテックフィリップ ノーチラスや、オーデマピゲ ロイヤルオークをクリエイトした天才デザイナー、ジェラルド・ジェンタ。彼が自らの名を冠し、興したブランド「ジェラルドジェンタ」を代表するモデルのひとつであり、後に「ジェラルドジェンタ」がブルガリ傘下となった後には、ブルガリ オクト レトログラードとして、そのデザインが継承された腕時計でもあります。

ありきたりの映画表現や演技を嫌ったデニス・ホッパーと、ありきたりの腕時計デザインを良しとしなかったジェラルド・ジェンタ。この二人には、クリエイターとして何か相通ずるものがあるように思えます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

芸術にも造詣が深く、写真家としても多くの作品を残しているデニス・ホッパー。アルコールやドラッグに溺れたり、映画会社との軋轢を重ねた彼の人生は、俳優=アーティストとしての「繊細さ」と「強烈なこだわり」が為せる業だったのではないかと思います。

殺し屋がカルティエのドレスウォッチを着けていたり、コアな時計好きが選ぶジェラルドジェンタをプライベートで着けたりと、腕時計の着けこなしも個性的だったデニス・ホッパー。演技にも腕時計にも強烈な個性を感じさせる彼の存在感は、スター揃いのハリウッド映画界においても、唯一無二のものと言えるでしょう。

*出典元:https://www.timeout.com/

チグハグさや違和感すらもキャラクターのパーソナリティに落とし込み、過去に類を見ない「偏執的な狂気」を感じさせる悪役に仕立て上げるデニス・ホッパーの演技。彼亡き後、それを継承した俳優はいまだ現れていないように思えます。もしかしたら、コンプライアンスポリティカル・コレクトネス重視の風潮が広まっている現代のハリウッドでは、彼のような「狂気」をはらんだ俳優は二度と現れないのかもしれません。しょうがないので『ブルーベルベット』を繰り返し観て、その寂しさを紛らわせたいと思います。

ではまた!

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