Dr.伊藤の
機械式時計徹底解剖!!

みなさま、こんばんは!

コミット銀座の鑑定士 兼 時計修理技術士の伊藤でございます。

私は、某有名ブランドの時計修理技術士として20年勤続しておりましたが、縁あってコミット銀座で鑑定士の道を歩み始めました。今回、長年に渡る技術士生活での経験を活かして、ムーブメントの解説、複雑時計の使用方法、日常のお手入れに関する情報など、普通はあまり知ることの出来ない情報をみなさまにお伝え出来たらと考え、記事を制作する運びとなりました。技術士でないとなかなか知ることが出来ないような裏情報もお話ししていきますので、ぜひ楽しんでご覧いただければと思います!

さて、記念すべき第1回は、

『【ロレックス】「Cal.31系」と「Cal.32系」どっちがいいの?』

こちらをテーマにお話ししていきたいと思います。

1988年に『デイデイト』へ搭載された「Cal.3155」に始まり、『ミルガウス』「Ref.116400GV」へ搭載されていた「Cal.3131」を最後に、長い現役生活に終止符を打った「Cal.31系」ムーブメント。

一方、2015年のデビューから9年が経過し、様々な現行モデルに搭載され、まさに円熟期を迎えようとしている「Cal.32系」ムーブメント。

今回はこれら2つのムーブメントに関して、技術者視点で見た時の比較を交えてお伝えしたいと思います!ぜひ最後までお楽しみください!

「Cal.31系」「Cal.32系」の比較

「Cal.31系」「Cal.32系」には、ともに名機とも呼ばれる「Cal.3135」「Cal.3255」が存在しているなど、どちらも非常に優秀なムーブメントということは皆さまご存じであるかと思います。その辺りのお話しについては、当店の別の記事でも多くご紹介していますので、今回は基本的なスペックや特徴などのご紹介は割愛させていただき、一般的にはあまり語られることの少ない、それぞれの”弱点”にフォーカスを当ててお話ししていきましょう。

「Cal.31系」の弱点

名機として語られることも多い「Cal.31系」ですが、数少ない弱点として、稀にリューズが引き出せなくなってしまうことがございます。これは、リューズを引き出す際に時計内部の歯車の歯先同士がぶつかってしまうことによります。

通常、一度引っ掛かってしまっても再度リューズを引き直せば、正常に操作出来ることがほとんどですが、「Cal.31系」はこの部分の構造がやや複雑になっており、何度リューズを引き直しても症状が改善しない、、、なんてことがございます。こうなってしまうと、一度分解して調整する必要がありますので、唯一の弱点と言えるのではないでしょうか。

ちなみに、リューズが引き出せなくなってしまうという不具合は、ノンデイトモデルに搭載されている「Cal.3130」「Cal.3131」「Cal.3132」ではほぼ起こらないことも、付け加えさせていただきます。

「Cal.32系」の弱点

「Cal.32系」では、前段の「Cal.31系」の弱点を受けて、リューズ周りの構造が変更されており、リューズが引き出せないという症状はほとんど出ないように改良されております。この辺りはさすが【ロレックス】と言ったところですね。それ以外にもパワーリザーブが約48時間から約70時間にスペックアップし、自動巻き機構のローターに新たにボールベアリングが採用されるなどの改良も加えられています。この話だけ聞くと「Cal.32系」の圧勝?と思ってしまいますが、実は弱点もございます。

それは「遅れ」が出やすいということ。

元々【ロレックス】の時計は非常に高精度なことで有名であり、現在は独自の高精度クロノメーター基準に則り、ケーシング状態で日差±2秒以内という厳しい検査をクリアした時計のみが出荷されています。ただ、これだけ精度を追い込むと、ほんの些細なことで精度に変化が現れた時の影響も大きく、数秒の遅れに繋がってしまうのです。

詳しくお伝えしますと、設計・工作精度が向上したことにより、部品同士の遊び(隙間)が少ないだけでなく、油の飛散防止用のコーティング処理を行うことで更に遊びが減り、部品同士の摩擦抵抗が大きくなってしまうことが要因ではないかと考えられています。

これは、数値で表すと100分の数ミリ程度と、ごく僅かな差だと思われますが、それでも動作に影響を与えてしまうあたり、機械式時計の繊細さに改めて驚かされます。ただ、さすがは【ロレックス】。日々改善を重ねていることで、個人的な体感にはなりますが、「Cal.32系」の遅れを見かける頻度は、以前より減ったように感じます。

結論

“リューズ”という自動巻きの時計においては比較的使用頻度の低い箇所に弱点がある「Cal.31系」に対し、”精度”という時計にとって最も重要なポイントに不安がある「Cal.32系」が、若干分が悪いかな?と思います。

高精度を求めて遊び(ゆとり)をなくし過ぎると不調に繋がってしまう、、、機械式時計も人間も同じですね。(笑)

※あくまで個人的な見解となります。

まとめ

今回、「Cal.31系」と「Cal.32系」を比較する為に改めて思い返してみましたが、どちらも”強いて言えば”という程度の弱点しか見当たらない、非常に優秀なムーブメントでありました。

また、それぞれの弱点をお伝えしたことで、不安を煽ってしまった形になりましたが、正直にお伝えしたい点ではありますし、これらは全くもって頻発する事象ではなく、更にはメンテナンスによって十分に改善出来るモノとなりますので、ご安心いただければと思います。

本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも沸いたようであれば、幸いでございます!

次回もお楽しみに!ではまた!

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