Dr.伊藤の機械式時計徹底解剖!!
Vol.2~機械式時計の精度はどうやって調整するの?~

みなさま、こんばんは!

第2回となる今回は、

『機械式時計の精度はどうやって調整するの?』

こちらをテーマにお話ししていきます。

近年、スマートフォンが普及したことで、時刻にズレが無いことは当たり前になっているかと思いますが、こと機械式時計においては、各社ブランドが高い技術力とコストを掛けて、高精度な時計を製造しています。では一体、どうやって、高精度な時計を作り上げているのか、主な精度調整方法や特徴についてお話していきたいと思います。ぜひ最後までご覧ください!

機械式時計の精度調整方法

機械式時計の精度調整の方法は大きく分けると2種類。

伝統的な”緩急針”による調整と、【パテックフィリップ】を始めとする高級機に使われる”フリースプラング方式”に分類されます。

“緩急針”という言葉は皆さんなんとなく聞いたことがあると思いますが、仕組みまでは分からないという方が多いと思いますので、出来るだけシンプルにご説明したいと思います。

“緩急針方式”は、ヒゲゼンマイの有効長を変化させて精度の調整を行います。これを振り子に例えると、振り子のヒモの長さを伸ばしたり、縮めたりして1往復するのに掛かる時間を変動させるのと同様です。調整幅が広いため様々な症状には対応できますが、微調整には向かず、秒単位で精度を高めるのは苦手。

対して、”フリースプラング方式”は緩急針を持たず、テンワに付いた錘の位置を微調整することで精度を変化させる機構です。振り子に例えると、ヒモの長さは変えずに錘に付いた小さなネジを出し入れして、慣性モーメントを変動させて精度を微調整するのと同様です。フリースプラングは緩急針よりも後に開発され、緩急針よりも繊細な調整が可能な点が特徴です。

代表的な緩急針(スワンネック)

名前の通り、白鳥の首のような曲線パーツで作られた緩急針のことで、バネとネジで固定されており、その繊細な美しさは機械式時計好きを魅了しています。高級機に使われるというだけあり、細かな制度調整もある程度しやすくなっているのも特徴です。

私の愛機、【A.ランゲ&ゾーネ】の『ランゲ1(初代)』にも採用されている機構で、その造形の美しさはため息もの。個人的にも好きな緩急針の一つです。

代表的なフリースプラング(マイクロステラナット)

【ロレックス】が独自に開発した機構で、テンワの中に4つのネジを配したシンプルな作りながら、非常に細かい精度調整を可能としています。マイクロステラナットと言われる星形のネジを回す専用工具さえあれば、特別な技術を必要とせずに秒単位の微調整が可能となっており、現行【ロレックス】の全てのモデルにこの機構が採用されています。

緩急針とフリースプラング、どっちが優れているの?

では、緩急針方式とフリースプラング方式、どっちが優れているのか。これは【パテックフィリップ】、【ロレックス】という高精度に定評あるブランドに長年採用されている、”フリースプラング方式”に軍配が上がります。

私も技術者として数多くの機械式時計の精度調整を行なってきましたが、”フリースプラング方式”の方が秒単位での精度の追い込みはしやすくなっています。ただ、緩急針に比べて調整幅が狭く、製造に高い技術力とコストがかかるという欠点もありますので、どちらにも良し悪しがございます。

*純正の「Cal.31」系ムーブメント。緩急針がなく、テンワにマイクロステラナットが付いている。

*社外の「Cal.31」系ムーブメント。マイクロステラナットがなく、緩急針がある。

また近年、非常に残念なことに【ロレックス】のムーブメントを完全コピーしたような社外品の出回りが確認されております。それらのムーブメントを見てみると、構造やパーツの配置はまさに瓜二つとなっていますが、精度調整に関わるテンプ周りの構造は、本家ロレックスとは異なる緩急針方式が採用されているモノがほとんどです。これは、フリースプラング方式の製造が難しく、高コストであることを皮肉にも物語っていますね。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

今後、高級機はフリースプラング方式、それ以外は緩急針方式という棲み分けがさらに進んでいく可能性は高いと思います。ただし、【オメガ】、【チューダー(チュードル)】などの比較的安価な時計を製造しているブランドにおいても、自社ムーブメントにフリースプラング方式を採用してきていますので、市場全体で時計製造のレベルが上がりつつあり、フリースプラング方式が一般的になることもあるかもしれませんね。

本記事が皆さまにとって有益な情報となり、高級腕時計に対する興味が少しでも沸いたようであれば、幸いでございます!また、ご不明点は直接ご質問いただければお答えしますので、皆様ぜひご来店、お問い合わせをお待ちしております。

次回もお楽しみに!ではまた!

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