『007』ジェームズ・ボンドの腕時計【ロジャー・ムーア編】 ~Actor’s Watch #4~

*出典元:https://www.bbcamerica.com/anglophenia/2012/10/50-years-of-james-bond-roger-moore-seven-times-007
映画やテレビなどで俳優が着用した時計にフォーカスする「Actor’s Watch」。
第4弾は再び『007』シリーズ、今回は【ロジャー・ムーア編】をお送りいたします。

3代目ジェームズ・ボンド

ショーン・コネリー降板後、2代目ボンド、ジョージ・レーゼンビーの『女王陛下の007』と、ショーン・コネリー復帰作の『007 ダイヤモンドは永遠に』の2作をはさみ、3代目のジェームズ・ボンド役に抜擢されたのがロジャー・ムーアでした。

もともと原作者のイアン・フレミングは、1作目からボンド役にロジャー・ムーアを推していたそうですが、別の人気シリーズ作に出演していた為、オファーを受けることができなかったようです。*出典元:https://www.007.com/sir-roger-moore-1927-2017/

ロジャー・ムーアは、コネリー版ボンドの「タフでワイルド」なイメージを払拭するため、知的でユーモアのある「エレガントで軽妙洒脱」なボンド像を確立。1973年~1985年の13年間もの長きに渡り、7作品でボンドを演じることになりますが、これは歴代ボンド俳優の中で、最多の出演回数となります。

クォーツショックの時代

ロジャー・ムーアがボンドを演じていた時代、時計業界史上の大きなターニングポイントがありました。世界初のクォーツ腕時計「セイコー アストロン」の発売(1969年)に端を発する、クォーツ時計の隆盛と、機械式時計の衰退です。

*出典元:https://www.seikowatches.com/

クォーツ技術のパテント化により、70年代中期~80年代にかけ、世界中のメーカーが安価で高精度なクォーツ腕時計を次々と発売し、これにより多くの機械式時計メーカーが休廃業を余儀なくされました。俗にいう「クォーツショック」です。

時計には並々ならぬこだわりを持っているであろうボンドも、この世界的なトレンドの移り変わりには逆らえず、この頃からセイコーなどのクォーツ時計を相棒に選ぶ機会が増えていきます。

ロジャー・ムーア版ボンドの腕時計

それでは、ロジャームーア版ボンドの腕元を飾った時計の数々を見ていきましょう。

『007/死ぬのは奴らだ』(1973年)

ポール・マッカートニー&ウイングスによるテーマソングも熱い、ムーア版ボンドのデビュー作。黒人犯罪組織の麻薬王という異色の敵役設定は、当時流行していたブラックムービーの影響と思われます。

冒頭、ボンドの腕には世界初のデジタルウォッチ、ハミルトンの「パルサー P2」が着けられておりますが、この時計の選択には、ショーン・コネリー時代とは全く異なる、新時代のボンド像をクリエイトしようとする、強い意気込みが感じられます。

*出典元:https://www.spotern.com/

劇中で着用されたもう一本の時計は、ロレックス サブマリーナー。
リューズガード、ノンデイト、クロノメーターなしの2行表記(フィートファースト・下サブ)から「Ref.5513」と思われます。

*出典元:https://www.reddit.com/r/JamesBond/comments/enkpts/the_rolex_submariner_5513_james_bond_uses_in_live/

「結局サブマリーナーかよ」とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、このRef.5513はただのサブマリーナーではありません。アルティザンドゥジュネーブも驚きの、この改造サブマリーナーは、強力な磁力を発することで銃弾の軌道を曲げたり、鉄製品を引き寄せたり、ワンピースのファスナーを下げたり、またベゼルが回転ノコギリとなり、手首を縛るロープを断ち切ったりと、スパイガジェットの魅力を存分に発揮した一本となっています。

*出典元:https://timeandtidewatches.com/the-complete-list-of-bond-watches/

パルサーも改造サブマリーナーも、いずれもショーン・コネリー時代との決別と新時代の幕開けを飾るに相応しい2本ではないかと思います。

『007/黄金銃を持つ男』(1974年)

劇中、ボンドが時間を確認するシーンでアップになったのはロレックス サブマリーナー。リューズガード、ノンデイト、クロノメーターなしの2行表記(フィートファースト・下サブ)から、前作と同じく「Ref.5513」と思われます。

*出典元:http://www7b.biglobe.ne.jp/~bwp/bond09.html

時計の活躍するシーンがなく残念ですが、名優クリストファー・リー演じる殺し屋、スカラマンガが持つ「黄金銃」のガジェット感を際立たせる為、あえてそうしたのではないか?と個人的に思っています。

『私を愛したスパイ』(1977年)

英国が誇る超一流の諜報部員が、セイコーのデジタルウォッチを着ける時代がやってきました。「クォーツLC 0674」は、セイコーの時計が初めてボンドの相棒となった記念すべきモデル。セイコーUKがタイアップを仕掛けたものといわれています。

*出典元:https://the007world.com/seiko-lc-0674/

ケースの12時側(デジタルウォッチでも12時側でいいのでしょうか?)から、リボンに印字されたメッセージが出てくるギミックが楽しい一本です。

『007/ムーンレイカー』(1979年)

007シリーズで最大の問題作。映画『スターウォーズ』の成功による世界的なSF映画ブームの最中に制作された本作では、とうとうボンドが宇宙に飛び出します。

*出典元:https://www.timesticking.com/all-james-bond-watches-from-rolex-submariner-to-omega-seamaster/

本作では、セイコーのデジタルクォーツ時計「メモリーバンク M354」が、核を積んだロケット「ムーンレイカー」の発射台に閉じ込められたボンドを窮地から救います。ネタバレで申し訳ございませんが、これが007シリーズ初の「時計爆弾」ではないでしょうか。

『007/ユア・アイズ・オンリー』(1981年)

『カリオストロの城』(1979年)の影響ではないかと思われる、シトロエン2CVでのカーチェイスから始まる本作では、セイコーの「プロフェッショナルダイバー 7549-7009」(通称:ツナ缶)と、衛星電話機能付に改造された、同じくセイコーのデジアナ時計「ハイブリッド JET088」を着用しています。

*出典元:https://twitter.com/Bond_Lifestyle/status/1248633331736104960

*出典元:http://www7b.biglobe.ne.jp/~bwp/bond12.html

ガジェットとしての質が「モノ」から「情報ツール」へと変化してきましたね。

『007/オクトパシー』(1983年)

美術品に仕込んだ発信機を追うレシーバーとして、セイコー「デジボーグG757 5020 SPORTS 100」の液晶表示が使われ、同じくセイコーのTVウォッチ(世界初のテレビ機能付き腕時計)が空撮映像の確認に使われるなど、時計が活躍します。

*出典元:https://www.jamesbondlifestyle.com/product/seiko-g757-5020-sports-100

*出典元:https://hightechies.com/gadgets/the-seiko-tv-watch.html

本格的に「情報の送受信ツール」としてハイテクウォッチが使われるようになり、ワクワクするような「未来感」を演出しています。

『007/美しき獲物たち』(1985年)

ロジャー・ムーア版ボンドの最終作。残念ながら時計が活躍するシーンはありません。

*出典元:https://www.jamesbondlifestyle.com/product/seiko-7a28-7020-quartz-chronograph

*出典元:https://quillandpad.com/2017/11/27/rolex-cartier-stole-seikos-groove-james-bonds-view-kill/

ボンドはセイコーの「クォーツクロノグラフ 7A28-7020」と、デジアナの「ハイブリッドダイバー H558-5000」を着用しています。タキシードにツナ缶!(笑)

まとめ

ロジャー・ムーアがボンドを演じた1970~80年代は、時計業界的には機械式時計メーカーが大打撃を受けた「クォーツショック」の真っただ中であり、また「日本のモノづくり」が世界中を席巻していた時代でもありました。その影響で、ボンドの腕元を飾る「相棒」も、大きく様変わりしてきたことが判るかと思います。

しかしロジャー・ムーア降板後の89年頃から、ボンドは再び機械式時計を相棒に選ぶようになります。これは80年代の終わりにラグジュアリーブランドや投資家によって、機械式時計の価値が再評価され始めた時期と一致しています。このように、007シリーズは「近代の腕時計の歴史」を映像でかえりみることができる、貴重な資料としての一面を持っています。

007シリーズを「機械式時計の衰退と再興」という視点で観てみるというのも面白いのではないでしょうか。

次回は機械式時計の再興編として、90年代以降の007シリーズを取り上げたいと思います。お楽しみに!

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